遺言や相続について調べている方は、「遺言信託」という言葉を目にしたことがあるのではないでしょうか。
近年一般的になってきたこの「遺言信託」という言葉ですが、実際その内容についてはよく分からないという声も聞きます。
そこで今回は、遺言信託について解説します。
「遺言信託」には二つの意味がある
「遺言信託」を理解する前提として、「信託」の意味を正しく理解しておきましょう。
まず「信託」とはどういう意味でしょうか?
「信託」とは、”他人をして一定の目的に従って財産の管理または処分させるために、その者に財産権を移転または処分をすること”、をいいます(信託法二条)。
つまり、「この財産をあなたに託すから、○○の目的のために使ってね」ということです。
これを「信託行為」と呼び、一般に信託銀行がこの業務を担っています。
さらに、ここで理解しておくべき点として、「遺言信託」という言葉は全く異なる二つの意味で使われている点が挙げられます。
- 信託銀行が顧客の遺言書の作成をサポートし、かつ、その遺言書における「遺言執行者」となるサービスの商品名
- 上記の「信託行為」を、遺言書で信託銀行に委託する意思表示を行うこと
2の方が、「遺言信託」という用語の、法律的に正しい使い方と言えます。
信託行為は、遺言者が生前に信託銀行と「信託契約」を結んで行うことが一般的ですが、遺言書で委託することもできます。
はじめに前者(1)の信託銀行のサービスについて詳しく説明します。
信託銀行等が提供する「遺言信託」サービス
信託銀行等が提供する遺言信託は、一般的には、遺言作成サポート、遺言書の保管、遺言の執行などがセットになったサービスです。
以下に具体的に説明します。
(1)遺言書の作成
顧客と遺言書の内容について相談・打ち合わせ等を行い、遺言書の内容が決まれば、公正証書遺言の原案を作成します。
公証人との打ち合わせ・相談、証人の用意等は原則として信託銀行がやってくれます。
(2)遺言書の保管
完成した公正証書遺言の正本を信託銀行が保管してくれます。
(3)定期照会
信託銀行は、定期的に資産状態や相続人の変動の有無、遺言書の見直し等について照会をしてくれます。
(4)遺言の執行
遺言者が亡くなつたときは、信託銀行は遺言執行者として公正証書遺言の内容に従って、遺産を相続人、受遺者(遺贈を受ける人)に相続、承継させる手続きを行います。
遺言信託サービスのメリットとデメリット
上記のように、信託銀行が(1)~(4)のすべてをやってくれます。
遺言書の作成・相続という煩雑な手続きを、信託銀行という公的に認可された大きな組織に任せるのは、弁護士や行政書士という個人に任せるよりも「安心感」があります。
「安心感」が最大のメリットと言えるでしょう。
しかし、デメリットもあります。(1)~(4)について説明します。
遺言書の作成について
信託銀行が作成に関わる遺言書は、公正証書遺言に限られ、自筆証書遺言は扱ってもらえません。
また遺言書作成の相談にのってくれ、遺言書の原案を作成するのは、弁護士、行政書士も同じです。
遺言書の保管
公正証書遺言は原本を公証役場で保管してくれます。正本を信託銀行が保管することにはあまり意味がありません。
定期照会
定期的に資産状況や遺言の見直しを照会してくれるサービスは、弁護士や行政書士に依頼しても同じことをしてくれます。
遺言の執行
遺言執行者は、未成年者と破産者以外は誰でもなれます。弁護士や行政書士も遺言執行者になることができます。
つまり、メリットとされている(1)~(4)は信託銀行でなければできないものではない、ということです。
また信託銀行が遺言執行者としてできることは「財産に関する遺言の執行」に限定されています。
遺言執行者の任務とされている身分行為(遺言による認知の届出・相続人の廃除・廃除の取消)の遺言執行者となることはできません。
さらに、費用が高額であることが一番のデメリットと言えるでしょう。
遺言による信託
次は、先述の「遺言信託の二つの意味」の後者(2)の遺言信託の法律的に正しい方について説明します。
法律的な意味での「遺言信託」とは、遺言によって信託行為を行うことをいいます。
例えば、Aが所有する不動産の名義をB信託銀行に移転し、B信託銀行がそれを賃貸して得た賃料収入をAの妻Cに生活費として渡してもらう、ということをAが遺言書に書き記しておく、ことをいいます。
つまり一定の目的を定めて財産を他人に移転し、その管理、処分など目的達成のために必要な行為を行ってもらうことを、遺言書で委託することです。
この場合、Aを委託者、B信託銀行を受託者、Cを受益者といいます。
先述のように信託行為は委託者と受託者の間で信託契約を結ぶ方法が一般的ですが、委託者が遺言で依頼することも可能です。
もちろんB信託銀行は受託者となることを承諾するか否かの自由を有しています。
この場合は、配偶者である妻Cの生活が相続を経ずに安定するというメリットがあります。しかし、他の相続人に対しての配慮は必要でしょう。
このように法的な意味での遺言信託を活用することで、通常の遺言では反映することが難しいような遺言者の意思を実現することも可能です。
まとめ
信託銀行のサービスとしての遺言信託は、「安心感」が大きなメリットであること、しかし、多額の費用がかかるというデメリットも申し上げました。
遺言による信託行為も、一般の方にはかなり煩雑なことです。ここはやはり行政書士や弁護士といった専門家に任せるのも一考の余地があるでしょう。
~ではその準備は整っています。