遺言書を作った方がいいという話は聞くけれど、具体的にどのようなメリットがあるのかわからないというお話をされる方は意外と多いです。
そこで今回は、遺言書を作っておくことの主なメリットを具体的に紹介します。
遺言書を作る主なメリット
遺言書を作る主なメリットとしては以下のようなものが挙げられます。
- どのような割合で財産を相続させるかを自分で決められる。
- 財産を適切に分配することで相続人間の争いを予防できる。
- 相続開始後の遺産分割の手続きがスムーズになる。
それでは早速、それぞれの項目について少し詳しく説明していきますが、本題に入る前に遺言書の種類や特徴について紹介しておきます。
遺言書には
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
の三種類があります。以下に具体的に説明します。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言書の全文、日付および氏名をすべて自分で書き(自書)、押印して作成する方式の遺言です(民法968条)。
自筆証書遺言のメリットとされるのは、次の点です。
- 誰にも知られずに遺言書を作成することが出来る(内容だけでなく、存在も隠しておける)。
- 遺言書作成の費用があまりかからない。
しかし、デメリットもあります。以下の点です。
- 方式不備で無効とされる危険性が大きい(とりわけ、加除・訂正している場合にその危険性が大きい)。
- 遺言書が発見されない危険性、偽造・変造、隠匿・破棄される危険性も大きい。
- 裁判所による検認手続きが必要である(民法1004条)。
「検認」とは、裁判所が遺言書の存在および確認をすることで、内容の法的有効無効を判断するものではありません。
民法は、検認は公正証書遺言の場合だけ不要と定めていましたが(1004条1項・2項)、2018年の民法改正に伴い、「遺言書保管法」を制定し、法務局に保管されている自筆証書遺言については、検認を不要としました。(この法律は2020年7月10日から施行されています)。
「遺言書保管法」を利用すれば、デメリットの2つめと3つめは消滅します。
自筆証書遺言は、裁判所による検認件数からすると、年間2万件ほど行われているようです(最高裁判所編「司法統計年報」)。
「遺言書保管法」ができたことで自筆証書遺言を書く人が増えるかもしれません。
公正証書遺言
公正証書遺言は、遺言者が、二人以上の証人の立ち会いのもとで、遺言の内容を公証人に伝え、公証人がこれを筆記して、公正証書による遺言書を作成する方式の遺言です(969条)。
公正証書遺言のメリットは以下の点にあります。
- 法の専門家である公証人が関与するから、方式不備による事後的紛争を回避できる。
- 遺言書は公証役場に保管されるので、偽造・変造、隠匿・破棄される危険性がほとんどない。
- 家庭裁判所での検認手続は不要。
しかし、以下のようなデメリットもあります。
- 遺言書の存在と内容が外部に明らかになる恐れがある。
- 遺言書作成の費用がかかる。
とは言え公正証書遺言のデメリットはそれほど大きなものではありません。
1については、公証人と証人には守秘義務が課せられていますから、遺言の存在と内容が外部に漏れる心配は非常に少ないです。
2についても相続財産の額に応じて変動しますし、相続財産に対してそれほど多額にはなりません。
公正証書遺言は三つの遺言書の中では安全、安心な遺言書として私共もお勧めしています。
2017年に全国で作成された公正証書遺言は11万191件であり、他の二つの遺言と比較すると圧倒的に多い件数です(日本公証人連合会HP)。
これは、公正証書遺言が遺言者に強く信頼されていることを物語っていると言えるでしょう。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言者が遺言内容を秘密にして遺言書を作成し、それを封印する。その封印した遺言書を公証人と二人以上の証人の前に提出して、自己の遺言書であることを申述するものです(民法970条)。
秘密証書遺言のメリットは以下の通りです。
- 自書能力がなくとも、遺言書を作成できる。PC・ワープロも使用できるし、他人に書いてもらうことも出来る。
- 遺言の存在を明らかにできるため、死後に遺言書が発見されないとか隠匿・廃棄される危険性が小さい。
- 遺言の内容を死亡の時まであきらかにしないでおくことが出来る。
秘密証書遺言のデメリットは以下の通りです。
- 遺言をしたという事実が明らかになってしまう。
- 遺言の内容を秘密にできるといっても、他人に遺言を書いてもらえば、内容が第三者に知られる危険性が大きい。
- 無効となるおそれは、公正証書遺言と比べると大きい。
- 裁判所の検認手続が必要である(1004条)。
上述のように秘密証書遺言はデメリットが大きく、年間でも数十件の利用しかありません。私共もお勧めしないことは先述の通りです。
財産分与の割合を自分で決められる
遺言書を作らなかった場合には、法律で定められた法定相続分に基づいて財産が分割されることになりますが、遺産相続に自分の意思を反映したいときには、遺言書が有効な手段です。
家庭内の様々な事情により法定相続分とは異なった相続を望んでおられる方もいらっしゃると思います。
例えば、
- 長年連れ添った配偶者には相続額の他に住居を残してあげたい
- ながく独身でいる子には多く相続させたい
- 将来が心配な病気や障害を持つ子には多く分けてあげたい
- 相続人以外の人に財産を分けてあげたい
等の様々な事情を抱えていらっしゃることもあるのではないでしょうか。
遺言制度の趣旨は、遺言者の意思を最も重視した遺産相続を進める、というところにあります。
遺言書を書くメリットは遺言者の意思が具体的に反映されるというところにあります。
相続人間の争いを予防できる。しかし、注意しないとトラブルの原因になることも
遺言書で財産をどう分けるかをはっきりさせておくことで、相続人間で争いになることを防ぐことができます。
ただし、財産の分配の仕方によっては逆に争いになってしまうこともありますので、その点は専門家の助言を得ることをお勧めします。
遺留分について
法定相続分とは異なった遺産分割をしようとしても、法律上の限度があります。
それが遺言者の配偶者と子、遺言者の直系尊属にだけ認められている遺留分(いりゅうぶん)という制度です。
遺留分とは、一定の相続人に保障される相続財産のことで、法定相続分の1/2の割合で認められているものです。
具体的に説明します。
相続人が配偶者と子だけの場合
民法では、人が亡くなったばあい、遺産総額の二分の一を配偶者が相続し、子が残りの二分一を相続します(900条1号)。
配偶者と子は最低でも遺産総額の二分の一を相続する権利が民法で認められています(1042条1項)。
よって、配偶者と子が1人の場合はそれぞれ1/2の遺産の1/2、つまり遺産総額の1/4が遺留分となります。
相続人が直系尊属(故人の両親または片方)だけの場合
直系尊属は最低でも遺産総額の三分の一を相続する権利が認められています(1042条1項)。
先述のように遺留分が認められているのは、配偶者と子、直系尊属だけであり、
兄弟姉妹やその他の相続人には認められていません。
遺留分制度が認められているのは、遺産相続には故人の残された家族の生活保障という一面があるからです。
遺言者が遺言で法定相続分とは異なった相続分を書きたくても、この遺留分を侵害することはできません。
もし、この遺留分を侵害するような遺産分割が行われた場合は、配偶者や子あるいは直系尊属はその財産を得た受遺者(法定相続人)や受贈者(遺贈を受けた者)に対して、侵害された額に相当する金銭を請求する権利を持っています。(遺留分侵害額請求権 民法1046条1項)。
相続開始後の手続きがスムーズに進む
遺言書(特に公正証書遺言)が作ってあると、相続が開始したあとに改めて相続人間で遺産分割協議書を作らなくても各種の手続きを進めることができます。
遺言書がない場合は、相続人だけで遺産分割協議を始めることは出来ず、相続人等が裁判所に遺言執行者の選任を請求しなければなりません。
執行者を誰にするか、どうやって遺産分割協議を進めるかを巡ってトラブルが起こってしまうことも珍しくありません。
現在、家庭裁判所で争われている遺産相続に関する事件の約90%が遺言書のない事件だそうです(最高裁HP 調査官レポート)。
まとめ
ここまで見てきたように、遺言書を作っておくことには、様々なメリットがあります。一番大切なことは「相続争い」を避けることでしょう。
もちろん遺言書が原因で争いが生じてしまうケースも残念ながら存在しますが、やはり遺言書を作っておいた方が良いケースの方がはるかに多いと感じています。
~では、遺言書のデメリットをなるべく少なくし、メリットを最大限活かせるような遺言書を作成するサポートをしていますので、遺言書の作成にご不安をお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。