「親族から突然相続を放棄する書類にハンコを押してくれと言われたのだが、押していいのかわからない。」というご相談を受けることがあります。
安易に相続放棄をしてしまうと、とても大きな損失になってしまうこともあるため、相続放棄についてしっかりと知っておくことが大切です。
そこで今回は、相続放棄について解説します。
相続放棄とは
相続放棄とは、文字通り「相続することを放棄する」ということですが、もう少し詳しく説明したいと思います。
相続は、被相続人の死亡によって開始し、相続人は、被相続人の財産に属した「一切の権利義務」を相続します(民法882条・896条)。
この「一切の権利義務」とは、被相続人の財産(積極財産)だけでなく債務(消極財産)も含みます。つまり相続とは、故人の財産と借金を受け継ぐということを意味しています。
しかし、相続は権利ですから、権利を行使する・しない、は相続人本人の自由な意思に委ねられています。民法も、相続人は、相続を承認または放棄できる、と定めています。
相続人は遺産相続権という権利を放棄できるのです。
相続放棄は、特に財産額(積極財産)よりも債務(消極財産)の方が大きい場合に意味を持ちます。
例えば、Aが被相続人で、Bが配偶者、CとDが子、とします。Aの財産は3000万円で、借金が5000万円だとします。
この場合、被相続人Aの遺産総額は借金2000万円になりますので、これを法定相続分に従って分割すれば、Bが1000万円の債務、CとDが各々500万円の債務を相続することになります。
この場合にBが1000万円の借金は相続したくない、と思って、相続放棄をすればBの相続する借金は0円になります。
相続放棄するとどうなるのか
相続人が、相続放棄をすると、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。
ただし、財産をうっかりいじってしまうと、「処分」とみなされ、放棄が認められなくなることがあるため、相続放棄を検討している場合には相続財産に手を付つけないよう注意が必要です。
相続放棄のメリットとしては、
- 借金から解放される
- 相続人間のもめごとから逃れられる
- 遺産を特定の相続人だけに相続させる
等が挙げられます。
しかしデメリットもあります。
- すべての相続財産を手放すことになります(住んでいる家から退去せざるを得ないことになったり、家財道具を処分できなくなります。)
- 相続順位が変動し、他の相続人とトラブルが発生する可能性があります(上記の例で、Bが1000万円の相続放棄をした場合、CとDが各々1000万円の借金を相続することになり、BとC・D間にトラブルが発生する恐れがあります。)
- 相続放棄は撤回(取り消し)出来ません
相続放棄の手続き
相続放棄は家庭裁判所に申述(しんじゅつ)しておこないます。
具体的には、相続放棄が記載された「申述書」が裁判所に提出され、それが受理されると、そこではじめて相続放棄の効力が生じます。
申述書が受理された場合は、「受理証明書」を裁判所から発行してもらうことができます。申述書には原則として本人自らの署名が必要ですが、本人または代理人の記名押印があれば有効です。
申述書の提出先は先述のように家庭裁判所ですが、申述人が申述書とともに提出すべき書類を挙げておきます。なお、放棄できる相続人は、配偶者・子・直系尊属・兄弟姉妹に限定されます。
- 相続放棄申述書
- 被相続人の住民票除票(または戸籍附票)
- 申述人の戸籍謄本
- 被相続人の死亡記載のある戸籍謄本(申述人が配偶者または子の場合のみ必要です)。
- 被相続人の出生時から死亡時までの戸籍謄本(申述人が直系尊属または兄弟姉妹の場合のみ必要です)。
- 配偶者(または子)の出生時から死亡時までの戸籍謄本(申述人が直系尊属または兄弟姉妹の場合のみ必要です)。
- 被相続人の親(父・母)の死亡記載のある戸籍謄本(申述人が被相続人の祖父母の場合のみ必要です)。
- この他に、収入印紙(800円)と切手(80円を数枚)が必要です。
相続放棄ができる期間
相続放棄は、
「自己のために相続の開始があったことを知った時から三か月以内」
に決定しなければいけません。
この期間内に相続放棄をしなければ、相続を承認したものとみなされますが、この期間を熟慮期間といい、相続を承認するか放棄するのか、三か月の間によく考えろ、ということです。
相続放棄した方がいいかどうかの判断基準
前述のように相続放棄をすると、プラスの財産もマイナスの財産(負債)も放棄することになります。
相続放棄をして親の残した多額の借金の返済を免れることは出来たが、自宅から退去せざるを得なくなった場合は、新居を探し、引っ越さなければならず、経済的にもかなりの負担になりますし、家族がいれば負担はなお大きくなります。
さらに他の相続人との人間関係も悪化することも覚悟しなければなりません。
相続放棄をした方がいいか否かは、
- 借金の額
- 親はその借金をどんな目的で作ったのか
- 借金を作る過程で相続人や家族はどの程度関与したのか
- その借金で相続人を含む家族はどのような利益を得たのか
等を総合的に勘案して判断すべきでしょう。
他の相続人と相談するのもよいでしょう。
一概に判断基準を作ることは非現実的であり、また不可能なことです。
まとめ
上述のように相続放棄は、自己の財産や他の相続人に与える影響が大きく、なかなか一人で決断できるものではありません、一人で悩むより弁護士さんに相談するのが好ましいと思います。
相続放棄の代行業務に関しては、私ども行政書士は関与できません。
弁護士さんに頼むか、信頼できる弁護士さんに心当たりがない方には、~がご紹介をいたしますので、どうぞお気軽にご連絡をください。
ちなみに、相続放棄の申述受理件数は、2007年~2016年度の10年間では、毎年度15万~20万件ほどで推移しています(最高裁判所司法統計)。