2021年5月に「紀州のドンファン」と呼ばれた野崎氏を殺害した容疑で元妻が逮捕・起訴されたというニュースがありました。
『殺人罪で元妻起訴 「ドン・ファン」死亡―和歌山地検』(時事ドットコム)
この件ではまだ有罪は確定していませんが、もし妻が夫を殺害した場合、相続の権利は一体どうなるのでしょうか。
相続欠格
法律では、一定の場合に相続人の相続権を失わせる「相続欠格」という制度が定められています。
相続欠格とは、相続人であつても、相続制度の基盤を破壊するような行為をした者に対しては、民法は、家族関係において適正な秩序を維持するとの公益的理由から、法律上当然に相続資格を剥奪し、相続権を失わせる制度をいいます。
民法891条は5つの欠格事由(該当すると相続する権利を失うようなこと)を定めています。具体的には以下のとおりです。
- 相続権を有する自己の直系尊属・配偶者・直系卑属・兄弟姉妹を故意に殺害し、又は殺害しようとしたために、刑に処せられた者
- 被相続人が殺害されたことを知りながら、これを告発せず、または告発しなかった者
- 被相続人が「相続に関する遺言」をしたり、撤回したり、変更しようとしているときに、詐欺・強迫によってこれらの行為を妨げた者
- 詐欺・強迫によって、被相続人に「相続に関する遺言」させたり、撤回や変更させたりした者
- 相続に関する被相続人の遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した者
「紀州のドンファン」事件は、ドンファンの元妻が自己の配偶者を殺害した容疑で逮捕・起訴されましたから、仮に有罪が確定すれば1に該当し、元妻はドンファンの遺産相続資格を剥奪され、相続権を失います。
いつ相続権を失うのかという問題がありますが、一般的に考えて元妻の有罪が確定したときとみるべきでしょう。
相続人の廃除
本題からは外れますが、相続欠格に類似した制度として、相続人の廃除という制度があります。
相続人の廃除とは、被相続人の意思により、家庭裁判所が相続人の相続資格を奪う制度です。民法は廃除相続人の具体例として次の三つ挙げています。
- 被相続人を虐待した相続人
- 被相続人に重大な侮辱を加えた相続人
- 被相続人に対して著しい非行があった相続人
いずれも被相続人と相続人との人間的信頼関係を破壊するものです。
しかし、廃除の対象は遺留分を有する相続人に限定されています。
*遺留分とは、被相続人の財産のなかで、法律上その取得が一定の相続人に留保されていて、相続人による自由な処分に制限が加えられている持分的割合をいいます。具体的には次の通りです。
- 直系尊属のみが相続人である場合→財産総額の三分の一
- 配偶者と子が相続人である場合→財産総額の二分の一
上記1~3のいずれかがある場合、被相続人は、家庭裁判所に当該の相続人の廃除を請求できます。
また廃除は遺言ですることもできます。
相続欠格と相続廃除の相違点と共通点
さらに理解しやすいように、相続欠格と相続廃除の相違点と共通点を紹介します。
相違点
相続欠格は法定された制度ですから、被相続人の意思でも動かすことは出来ません。しかし、相続廃除は被相続人の意思に依るものですから、廃除が認められた後に、廃除の取り消しを家庭裁判所に請求することができます。
また遺言で廃除の取り消しをすることも出来ます。
共通点
相続欠格と相続廃除の両者ともに「代襲相続」が認められていることです(民法887条)。
代襲相続とは、「被相続人が、死亡・欠格・廃除によって相続権を失った場合に、当該被相続人の直系卑属が相続分を承継する」ことを言います。
被相続人が欠格事由に該当することを行い、よって相続権を失ってもその者に子がいればその子が相続します。
子がいなくても孫がいれば孫が相続します。相続廃除の場合も廃除によって相続権を失った者に子がいればその子が相続します。子がいなくても孫がいればその孫が相続します。
繰り返しになりますが、相続欠格はその要件・効果が法定されており、相続廃除は人の意思に依るものです。これは相続欠格は違法性が強く、家族関係を崩壊せしめる危険性が相続廃除よりも大きいと考えられたからです。
では今日はここで終わりとします。