任意後見制度の中に、後見監督人という存在があります。
ただでさえ複雑な任意後見制度なのに、後見監督人までいくと混乱してしまう方もいらっしゃると思います。
後見監督人は、その名のとおり後見人を監督するのがその役割ですが、なぜ後見監督人が必要となるのか、具体的に後見人のどのような行為を監督するのか、そしてどのような権限があるのか、について解説します。
後見監督人はどうして必要か?
後見監督人を解説する前提として、任意後見制度について説明します。
任意後見制度は、本人が契約締結に必要な判断能力を有している時に、将来認知症等で判断能力が衰えた場合に備えて、あらかじめ本人が選んだ代理人(任意後見受任者)に、自分の療養看護や財産管理の事務について代理権を与える契約を締結する制度のことです。
この契約を任意後見契約と呼び、この契約書は公正証書でなければなりません。
任意後見制度は本人と代理人(任意後見人)との信頼関係に基づいていますが、残念ながら本人が信頼を寄せて選んだ後見人が、本人の判断能力の低下をいいことに「信頼関係を損なう」ケースは少なからずあるようです。
本人の財産を勝手に使い込むということが実際に起こっているのです。また、不正の恐れはなくとも後見人と本人が利益相反する場合には、本人の代理人が必要です。
主にこのような場合に、意義を持つ制度が後見監督人です。後見監督人は後見人の任務を監督します。
このような理由から、任意後見契約が効力を生じるためには、後見監督人の選任が必須とされています。
ただし、後見監督人は任意後見契約を結んだからといって自動的に選任されるわけではなく、本人や家族、親族の申し立てにより裁判所によって選任されます(裁判所の職権で選任されることもあります)。
後見監督人は誰がなるの?
後見監督人は(裁判所が職権で選任する場合を除いて)本人や配偶者、四親等以内の親族、任意後見受任者の申し立てに基づき、家庭裁判所の審判により選任されます。
後見監督人は任意後見人の場合と同じく、特に資格は不要です。しかし、次の人は後見監督人にはなれません。
- 任意後見受任者本人
- 任意後見受任者の配偶者
- 任意後見受任者の直系血族及び兄弟姉妹
- 本人に対して訴訟をし、又はした者
- 破産者で復権していない者
- 不正な行為を行った者、あるいは著しく不行跡な者
いずれも任意後見人の場合と同じく、本人と信頼関係の構築・維持に問題がある、あるいは、ありそうな人です。
後見監督人の任務はどんなこと?
後見監督人の主な任務は、次のとおりです。
- 後見人の事務を監督すること。
- 急迫の事情がある場合に必要な処分をすること。
- 後見人と本人が利益相反する場合に本人を代表すること。
- 後見人に後見事務の報告を求めたり、本人の財産状況等を調査すること。
- 後見人の解任を請求すること。
監督の方法・時期について
後見監督人が行う監督の方法(報告内容)や時期(回数)は、基本的には後見監督人の判断に委ねられていますが、後見人の事務処理状況を的確に把握し、きめ細かな監督を実施する必要性を考えると、少なくとも三か月に一回は後見人から報告を求めるのが相当です。
後見人との間で、報告を求める内容(提出書類)や時期(回数)について、事前に打ち合わせを行うなどする必要があります。
法定後見監督人と任意後見監督人
これまではもっぱら任意後見監督人について説明してきましたが、ここで法定後見監督人について少し説明をしておきます。
法定後見監督人も後見人の任務を監督することには変わりはありません。しかし、後見人には未成年後見人と成年後見人の二種類があり、さらに成年後見人は本人の判断能力の度合いに応じて三種類に分けられます。次に具体的に説明します。
(1)未成年後見人
原則として親権者が後見人になります。親権者は遺言で後見人を指定することもできます。
未成年後見人となるべき者がいないときは、家庭裁判所が請求によって未成年後見人を選任します。
請求権者は、未成年被後見人、その親族、その他の利害関係人です。
未成年後見人がいる場合も以下の方法で後見監督人を置くことができます。
- 後見人である親権者が、遺言で未成年後見監督人を指定
- 家庭裁判所が、請求または職権で後見監督人を選任
請求権者は、被後見人、その親族、後見人です。
なお、後見人の配偶者、直系血族、兄弟姉妹(民法850条)は後見監督人になることはできません。
(2)成年後見人
成年後見人は、本人の判断能力の度合いに応じて、後見人、保佐人、補助人の三つに分けられます。
具体的に説明します。
1.後見人
被後見人は、「判断能力が欠けていることが通常の状態の人」です。後見人は家庭裁判所によって選任されます。
2.保佐人
被保佐人は、「判断能力が著しく不十分な人」です。 保佐人は家庭裁判所によって選任されます。
3.補助人
被補助人は、「判断能力が不十分な人」です。補助人も家庭裁判所によって選任されます。
(3)成年後見監督人(保佐監督人・補助監督人)
上記の成年後見人(保佐人・補助人)がいる場合でも、家庭裁判所は、被後見人、その親族もしくは後見人の請求により、または職権で後見監督人を選任することができます。
これを法定後見監督人と言います。後見監督人の他は、保佐監督人、補助監督人と呼ばれます。
成年後見監督人になれない人は、未成年後見監督人と同じく、後見人(保佐人・補助人)の配偶者、直系血族、兄弟姉妹です。
法定後見監督人の任務はどんなこと?
法定後見監督人の任務は次の通りです。
- 成年後見人(保佐人・補助人)が行う後見等の事務を監督すること。後見事務の監督とは、成年後見人(保佐人・補助人)が不正な行為や権限の濫用等をしないよう監督することです。
- 成年後見人(保佐人・補助人)が欠けた場合に、遅滞なくその選任を家庭裁判所に申し立てること。
- 急迫の事情がある場合に、成年後見人(保佐人・補助人)に代わって必要な処分をすること。
- 成年後見人(保佐人・補助人)と本人との利益が相反する行為について、本人を代表すること。
- 保佐人・補助人と本人との利益が相反する行為について、本人がこれをすることに同意すること。
まとめ
主に後見監督人について説明してきましたが、かなりハードな任務だということがお分かり頂けたと思います。後見人の事務を監督するといっても、その任務が複雑であればあるほど、監督も複雑化します。また後見人とのあつれきも生じるかもしれません。
ここは、専門家に任せるのが賢明と思われます。
後見人や後見監督人についてお悩みの方は、~にぜひ一度ご相談下さい。本日はここまでとします。