最近では法務局での保管制度もできたことで、自筆証書遺言を用意する方が増えてきています。
そこで今回は、自筆証書遺言と遺言書保管制度について解説します。
自筆証書遺言の要件
自筆証書遺言は、法律の求める要件を満たした形式で書かれていなければ効力を発揮しません。
法律の定める要件は以下の通りです。
自筆証書遺言は、遺言者が遺言書の全文、日付および氏名を自分で書き(自書)、押印して作成する方式の遺言である(民法968条一項)とされています。
全文・日付・氏名を自分で書かなくてはなりませんし、代理人はもちろん使えず、パソコンやワープロも使用できません。
なお、押印は氏名の後だけでなく、文字を加除・訂正した場合も必要です。
自筆証書遺言のメリットとしては、
- 誰にも知られずに作成できる
- 内容も存在も隠しておける
- 作成費用があまりかからない
などが挙げられます。
しかし、
- 方式不備で無効とされる危険性が大きい(特に加除・訂正している場合)
- 遺言書が発見されない危険性や偽造・変造される危険性も大きい
- 遺言書の紛失や他人による隠匿・破棄の危険性も大きい
- 家庭裁判所による検認手続きが必要とされる(民法1004条)
などのデメリットもあります。
公正証書遺言が年間約11万件(日本公証人連合会HP)なのに対して、裁判所検認回数からして、自筆証書遺言は約2万件(最高裁判所編「司法統計年報」)と少ないのは自筆証書遺言のデメリットが大きいからでしょう(とりわけ2、3、4が挙げられます)。
そこで法務省は自筆証書遺言を普及させることを目的として2018年の民法改正において上記デメリットをほとんど克服した「遺言書保管法」を制定しました(2020年7月10日から施行されています)。
自筆証書遺言保管制度
遺言書保管制度とは、自筆証書遺言を法務局が保管する制度のことです。
この制度の趣旨は、遺言書を法務局が保管することによって、次の目的を果たそうとするものです。
- 遺言書の紛失や隠匿等を防止することができる。
- 遺言書の存在の把握が容易になり、相続人が遺言書を発見しやすくなる。
- 検認手続きが不要となり、遺産相続がスムーズに進む。
この制度は遺言者・相続人等ともに利用できます。ただし、相続人等が利用できるのは遺言者の死亡後です。
遺言者本人が利用する場合
遺言者本人が利用する場合遺言書の保管・閲覧申請手順は次の通りです。
まずは遺言者本人が作成した自筆証書遺言を本人が保管場所に持参する(本人が持参すること。代理人は不可。)
保管場所は以下の三つのいずれかを管轄する遺言書保管所を一か所選びます
- 遺言者の住所地
- 遺言者の本籍地
- 遺言者が所有する不動産の所在地
遺言保管所が決まったら、遺言書の保管を申請し、保管証を受け取る。手数料は1通3900円です。
遺言者は保管後、全国どこの保管所でも遺言書の閲覧ができます。
なお、遺言書は保管したあとでも、遺言者であれば遺言書の撤回・変更が可能です。
遺言書の変更の届け出は全国どこの保管所でもできますが、撤回をしたい場合には、撤回は遺言書の原本が保管されている保管所で撤回申請をする必要があります。
相続人等が利用する場合
相続人などには、遺言者の死亡後、三種類の証明書交付請求が認められています。
遺言書保管事実証明書交付請求
故人が遺言書を保管しているか否かの確認ができます。
請求できるのは、相続人、遺言執行者、受遺者などで、全国どこの保管所でも請求できます(手数料は1通800円)。
遺言書情報証明書交付請求
遺言書保管所に保管されている遺言書の内容の証明書(手数料は1通1400円)を取得することができます。
全国の保管所で取得することができ、請求できるのは、相続人、遺言執行者、受遺者などです。
遺言書閲覧請求
遺言書の内容確認のために閲覧請求ができます。請求権者は、相続人、遺言執行者、受遺者等です。
遺言書の原本を閲覧する場合は、遺言書が保管されている保管所でのみ閲覧可能で、手数料は1通1700円(モニターでの閲覧は全国どこの保管所でも可能で、手数料は1通1400円)です。
また相続人等が遺言書を閲覧した場合は、遺言書保管官は他の相続人に、遺言書が保管されていることを通知します。
まとめ
上述のように、2020年7月から、法務局に自筆証書遺言を保管してもらえる自筆証書遺言保管制度が設けられました。
法務局に保管してもらう際には形式面のチェックもありますし、相続が発生したとの検認も不要ですので、自筆証書遺言を作成するのであれば、自筆証書遺言保管制度を利用することをお勧めしています。
しかし、自筆証書遺言を、単独で、方式の不備なく、法律的にも有効に書くことはかなり困難であり、紛争予防のために作成する遺言書が、遺言者の意図とは裏腹に紛争の元になってしまうことは、何としてでも避けなければなりません。
遺言書の作成はやはり専門家(行政書士・弁護士)に依頼するのが、紛争防止を願う遺言者の意思に叶っているものと思われます。